2016年、夏。都内某所の落ち着いた雰囲気のカフェにて。
「易がカウンセリングやヘルピングの道具として、役に立つということをどう伝えるか、それを見てみたいと思います」と私。
「どう伝えるか。結構難しいと思うけど、何かヒントになるかも知れないですね」と新井先生。
これは新井典生先生との新企画ワークショップ打ち合わせのワンシーン。その新企画とは「易」。
そう、易者さんが竹の棒をジャラジャラさせる、あの「易」です。
その「易」とカウンセリングをテーマにした野心的な研修を開催しようと目論んでいたのでした。
新井先生は度々お世話になっている研修講師の先生。
と同時に、新井先生は易の専門誌に連載を持っていたほどの『易経』の研究家で、相談業務にすでに易占と心理カウンセリングで応じているのです。だから私はこの企画を相談したのでした。
「易はカウンセリング/対人援助に役に立つ」
そのことは我々にとっては明々白々の事実なのですが、それをどのように世に問うか?
「占い? そんないい加減なものをカウンセリングに?」
という誤ったイメージを抱かせないよう、「易」の有用性をどのように訴えるか?
ならば、ということで冒頭にもどります。
つまり、その問い自体を新井先生に易で見てもらうことにしたのです。
「占的は大丈夫ですかね」と新井先生。
「大丈夫です」と私。
占的とは易で伺う対象のことです。この場合は
「易がカウンセリングやヘルピングの道具として、役に立つということをどう伝えるか」
です。
『真摯に“易”の門を叩く者にしか“易”はその姿を現さないものだ』
とユングは言っています。だから卦をとる時にはかなり真剣にやったほうがいい」
新井先生の目がきらりと光ります。
「ではいきましょう。爻(こう)を取りたいので、10円玉が5つと100円玉が1つあるといいんだけれども」
「はい、あります」
「ではコインの表面を陽、裏面を陰としましょう」
筮竹と呼ばれる細い棒を用いた本格的なものではなく、今回はコインを使った簡略版。
陰と陽という二種類の結果が得られるアイテムなら何だっていいのです。
ちなみに易では
陰を
陽を
という記号で表します。
そして、その一つ一つを爻(こう)といいます。
「では両手の中でジャラジャラとやって、下から一枚ずつ123…と出していってください」
「はい、行きます!」
易とは基本、自分で自分のことを占うものです。
パチ…パチ…
将棋の駒のように、コインがテーブルに打ち付けられる音がカフェに響きます。
易は爻を下から表現していきます。
結果は
裏(100円玉)
表
表
裏
表
裏
つまり
この6本の爻の形に意味があり、今回は100円玉の位置にも意味があります。
新井先生、覗き込んで曰く、
「易には64の形があって、難しい結果を表すものが4つあるんです。これはその内の一つです」
「え、え~」
「《沢水困 たくすいこん》と言います。池の底が抜けて水が全て漏れてしまった状態。だから今アイデアが抜けてしまって困っていますね、というのが全体の見方です」
新井先生は易のシンボルが表す意味を、私の状況に照らし合わせてそのように言いました。確かにそのような状態ではあります。
「じゃあ何かヒントはないのか、となったら少し辞を見てみましょう」
鞄から古色蒼然とした書物を取り出す先生。その使い込まれようは職人の道具であるかのようです。
辞とは『易経』に書いてある一つ一つの卦の解説のことです。
「……困は亨る貞し。大人は吉にして咎なし――。(100円玉が置かれた)6番目の辞は
つたかずらに足を取られて、進もうと思っているのに進み辛くなっている。ごつごつした所に座っているような感じです。
いま苦労しているが進んで行けば吉……」
「行けば吉ですか。では四の五の考えていないで、手を動かせってことですかねえ」
「そうですね。そして……」
新井先生は算木を取り出し、《沢水困》の形に並べます。
算木とは本来の“易”で使う、卦を表現する棒のことです。黒い、木でできた、細長いドミノのような形をしています。
「進んで行けば水が池の上に来る……」
そういいながら新井先生は、
ガチン!
と小気味よい音を立てて下3本と上3本の算木を入れ替えました。
↓
「《水沢節 すいたくせつ》といって池が水を蓄えた状態になります」
「おお~!」
というわけで、そこからの作業は
「迷わず行けよ 行けばわかるさ(アリガトー!)」
という感じで進みました。
それが最適な選択肢であったかどうかは分かりません。別の未来を選びようがないので。
ですが、“易”のシステムは私を前向きにしたことは事実。
そして、前向きな気持ちがパフォーマンスに影響することは間違いありません。
相談者に合わせた“易”の解釈を、相談者にとって役に立つ形で返す。
そして、相談者はリソースフルな状態を得る。
これが本当の“易”。本来の“占い”の姿です。
・易を応用したカウンセリングの事例の紹介
・カウンセリングのどこに易占を取り入れるか
・硬貨を使った易占の仕方やその結果の読み方・伝え方など
一味違ったクライエントの援助法として「易」を活用するためのオンライン教材です。